サーミスタやCdSセルなど、抵抗値が変化するタイプのセンサーは、温度や光量といった物理量を電気的に読み取るために広く使われています。これらのセンサーを使う際、よく登場するのが「分圧回路」です。
ではここで質問ですが、なぜ分圧回路が必要なのでしょうか?サーミスタやCdSセル自体の抵抗値が変化するなら、電圧や電流を直接測定すればよいのでは?という疑問を持つ方も多いはずです。
サーミスタやCdSセルなどの抵抗値が変化するセンサーを使うなら、無条件で分圧回路を使う。と条件反射で答える人もいるかもしれません。では、なぜ分圧回路でなければいけないのか?答えることはできるでしょうか?
この記事では、センサ類に分圧回路が必要な本質的な理由を、電気的・回路的な観点から丁寧に解説します。
抵抗値が変化するセンサーを使うとき、分圧回路が必要な理由が理解できる。
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サーミスタやCdSセルは「抵抗値が変化するだけ」の素子
まず、サーミスタやCdSセルの基本的な電気的な性質に触れておきましょう。簡単に説明すると、これらのパーツは、抵抗値が変化する素子です。
抵抗型センサーの基本的な性質
サーミスタやCdSセルは、温度や光量に応じて内部の抵抗値が変化する受動素子です。自ら電圧を出力するわけではなく、外部から電圧を供給されて初めて電流が流れ、電圧降下が生じます。受動素子と言えば、固定抵抗も同じく受動素子ですね。

単体では意味のある電圧は得られない
例えば、サーミスタの片端をVcc(電源)に、もう片端をGND(0V)に接続した場合、電圧は固定されます。当然ですよね。片方をVcc、もう片方をGNDにつないでいるわけですから、抵抗値が変化したところで電圧の変化はありません。テスターで電圧を測定したところで、Vccで固定されます。ですから、センサーの両端の電圧は測定不能です。
分圧回路の役割:抵抗値の変化を電圧の変化に変換する
抵抗値の変化を読み取るためには、ただ電圧を測定するだけではダメです。それは先ほど解説した通りです。では、どうしたら抵抗値の変化が読み取れるでしょうか?その方法が、分圧を使うことなのです。
分圧回路の基本構成
分圧のおさらいです。分圧回路とは、2つ以上の抵抗を直列に接続し、その中点の電圧を測定する回路です。センサーの抵抗値が変化することで、分圧点の電圧も変化します。
分圧回路については、以前の記事で詳しく解説しています。分圧ってなんだっけ?という場合には見返してみてください。
分圧回路の例
分圧回路でサーミスタを接続する場合の例を挙げておきます

この構成により、サーミスタの抵抗値に応じて分圧点\(V_{OUT}\)の電圧が変化し、マイコンのADCで読み取ることができます。
なぜ比較抵抗が必要なのか?
ここが今回の内容の本質です。サーミスタ単体では「抵抗値が変化した」という事実はあっても、それを電圧として意味づけることができません。電圧は2点間の電位差であり、基準点がなければ変化を測定できないのです。
固定抵抗はこの「基準点」を提供する役割を果たします。サーミスタと直列に接続することで、電流が流れ、分圧点に意味のある電圧が現れます。
分圧の式を思い出してほしいのですが、上記の例の場合、サーミスタやCdSセルにかかる電圧は、次のようになります。
$$V_{OUT}=\dfrac{R_t}{R+R_t}\times V_{cc}$$
注目するのは、抵抗値の分数\(\dfrac{R_t}{R+R_t}\)です。このパラメータからわかる通り、サーミスタやCdSセルの抵抗値が変わると、このパラメータも変わり、結果として\(V_{OUT}\)つまり、\(R_t\)にかかる電圧が変化します。
この電圧の変化をマイコンボードをはじめとするツールで読み取れば、センサーとして使用できるという仕組みです。単純にサーミスタやCdSセルと電源だけ用意したところで、センサーとして電圧の変化が無いため使用できないことが理解できたのではないでしょうか?
繰り返しになりますが、結論としては、抵抗値が変化するセンサーを使って、電圧で値を読み取りたい場合は、分圧回路が必要になります。
電流測定では分圧回路は不要なのか?
抵抗値の変化を、電圧を読むことで検知するには分圧回路が必要です。では、もっと単純に抵抗の変化を読み取る方法はないでしょうか?
オームの法則を思い出すと、\(V=R\timesI\)であるため、同じ電圧がかかった場合に、抵抗値が変化すると電流値が変化するはずです。
理論的には「電流測定で十分」
電圧が一定という条件付きにはなりますが、抵抗値が変化すれば電流も変化します。つまり、電流の測定が可能であれば、抵抗値の変化を読み取ることができます。つまり、言いかえれば、サーミスタやCdSセルなどのセンサーの変化を読み取ることも可能です。
実用的には電流測定が難しい
分圧回路が不要なぶん、回路として単純になるため、メリットが多そうですが、実はハードルもあります。
マイコンは電流を直接測定できない
多くのマイコン(Arduinoなど)は電流は直接測定できず、電圧を測定する機能しかありません。電流を測るには、別にシャント抵抗や専用の電流センサーが必要になります。
つまり、電流の変化を一度電圧に変換しなければいけません。じつはこの電圧への変換には、分圧回路が使われたりするため、結局のところ電流値を直接測っているとは言えないのです。そこまでの手間をかけるなら、分圧回路を組んだほうが早いなんて話もあります。
分圧回路が選ばれる理由:簡便・確実・汎用性
ここまでの解説をご覧いただければ、分圧回路を使う理由についてはほとんど理解されているのではないでしょうか?いったんここで分圧回路を選ぶメリットについてまとめておきます。
電圧測定はマイコンにとって自然な手段
Arduinoをはじめとするマイコンボードは、アナログ電圧をデジタルに変換してくれる、ADC(Analog to Digital Converter)を大抵の場合搭載しています。ADCは言い換えれば、電圧を読み取るための回路です。
つまり、電流値の変化をそのまま測定することはできないが、電圧の変化は標準機能として測定できるということですね。標準機能で測定できるほうが良いですよね。
実装がシンプルで安定
分圧回路は抵抗2本で構成でき、配線もシンプルです。電流測定に比べてノイズの影響も少なく、安定した測定が可能です。
多くのセンサーに応用可能
サーミスタやCdSセルだけでなく、可変抵抗やフォトレジスタなど、抵抗値が変化するあらゆるセンサーに応用できます。抵抗値が変化するタイプのセンサーであれば使えるので、用途はかなり広いです。
まとめ:分圧回路は「情報化のための構造」
抵抗値が変化するセンサーは、物理量を電気的に読み取るための入り口です。しかし、そのままでは「状態」はあっても「情報」にはなりません。本当に必要なのは、抵抗値の変化から得られる電圧の変化です。
分圧回路は、センサーの抵抗値変化を電圧という形で意味づける構造です。これにより、マイコンが読み取れる「情報」として扱えるようになります。
- 抵抗値の変わるセンサ(※サーミスタやCdSセル)を使うときは分圧回路を使うことが多い。
- 分圧回路を使わない場合は、電流値の変化を測定する方法もある。
- 分圧回路を使わずに、単体でセンサーにかかる電圧を見ても\(V_{CC}\)で固定されて変化しない。






